妙好人の軌跡をたどって in 五箇山
青春18きっぷの最後の一日を消費したく、先日富山県の氷見・五箇山へと旅しました。きっぷの元を取るという目的もあったのですが、一番の目的は、「妙好人・赤尾の道宗」について知ることです。これまで鈴木大拙の『日本的霊性』や藤吉慈海の論文を読んで頭で理解していましたが、この旅で一つ勉強になったことが有りました。
今回のテーマは、五箇山日帰り旅で感じた「浄土と禅の共通点」です。
* * *
五箇山は、白川郷と並ぶ日本の合掌造りの集落で、1995年に世界遺産に登録されています。また、合掌造りの建物で宿泊ができることから、現地の案内所の人は「泊まれる世界遺産」と豪語しています。私が訪れた時にはあいにくの雨でしたが、自然で囲まれているので植物の香りがいっそう薫る空間になっていました。
JR城端駅から出る世界遺産バスで50分揺られた先に、「行徳寺」という浄土真宗の寺院があります。案内をして下さったのは飾らない風貌の小母さんで、寺の本堂や開基とされる妙好人・赤尾の道宗、そして浄土真宗について1時間ほど私に語って下さいました。
ここで、「妙好人」について少し説明します。妙好人は、浄土真宗において特に信仰に篤く徳行を積んでいる人のことです*1。この方々の非常に敬虔な所は、何といっても浄土の教えを体得し、信心を中心に据えて生活していたところ、といって良いでしょう。
行徳寺の開基とされている赤尾の道宗は、室町時代に実在した妙好人です。
こんな話が残っています。彼は「畳の上で眠るとはとんでもない」と、毎晩48本の薪を敷いてその上で眠り、寝返りで痛みを感じては「あゝ自分は仏さまに生かされておるのだな」と痛感し、阿弥陀仏からの御恩を忘れなかったということです。行徳寺には、この時の道宗を模した木像が安置されており、彫刻家で有名な棟方志功は版画を作製しています*2。
妙好人は、「南無阿弥陀仏と唱えて救済してもらう…」だけでは語り尽くせない領域に入った人物のようですね―—。道宗については、行徳寺にある赤尾道宗遺徳館で購入した『赤尾の道宗』(岩見護)をまだ読了していないので、また今度綴ることにします。
さて、そんな道宗について一通り語ったのち、小母さんはこんなことも仰っていました。
「(あくまで浄土真宗ではですが)仏さまというのは、(周りの人やものなど全て)私を生かしてくれているすべてのものだと思うんです。たとえ暗い場所にいても仏さまの光に照らされていると自覚できたら、『ああ、すぐそばにこんなに有り難いものがあったのか……』と足下にある存在に気づくことが出来ることが、とても大切であると」
そのとき、こんな言葉が頭をよぎりました。
衆生近きを知らずして 遠く求むるはかなさよ
たとえば水の中に居て 渇(かつ)を叫ぶが如くなり
これは、白隠慧鶴禅師の著した『坐禅和讃』(臨済宗の書物)の一節です。とても驚きました。まったく一緒のことを云っているではありませんか!
これは私が『歎異抄』や『生の仏教 死の仏教』京極逸蔵などを読んで感じたことなのですが、南無阿弥陀仏という六字の名号を唱え阿弥陀様に(本当に)帰依する人は、そのとき阿弥陀仏と一体になるので自己という縛りから解放されています。
私たちはどうしても現実の苦に直面したとき、あれこれ自力で考えたりするものですが、それでは迷妄の淵へ沈むばかりです。そのとき絶対他力(仏)の有難さを体感することで、今自分が存在している世界がいかに有り難いものであるのかを知ることが出来る――、という解釈に現在(絶対はないので、今後の経験で変わることは大いにあります)行きついています。
ここで驚いたのは、方法論こそ違え本質的には禅宗と変わりないことです。私は妙好人でも一無位の真人でもございませんが、私は、絶対他力に身を委ねて自己を解放する浄土と、坐禅や公案を通して妄想から解放されて無(虚無じゃないよ!)の境地に至る禅にシンパシーを感じずにはいられません。
まあ、仏教の真理を山の頂上とするなら、坐禅も念仏も法華経も登山の一経路ですから、当たり前と言えば当たり前なのでしょうがね――。
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行徳寺のある五箇山を始め、富山は浄土真宗が深く根付いている町です。小母さんによれば、雪など厳しい自然の中で宗教性が育まれ、地域の方々が日々の営みの中でそれを実践していたということです。どこに暮らしていようとも、妙好人のように周りに存在する仏さまに感謝しながら実のある暮らしを送れるようにしたいものですね――。
以上、富山から報告でした。(了)
【今回参照した書籍はこちら】
- 作者:鈴木 大拙
- 発売日: 1972/10/16
- メディア: 文庫
- 作者:金子 大栄
- メディア: 文庫
- 作者:京極 逸蔵
- 発売日: 2021/01/09
- メディア: 文庫
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